常勝チームの要がゆえの苦悩から、記憶喪失になってしまうという設定の主人公。ギャグとシリアスを織り交ぜながら展開される同作は、負けたものの挫折と苦悩、そこから再起だけでなく、勝ってきた側の苦悩や再起に光りを当てる。天才の上にはさらなる天才がいるという、辛い勝負の世界における描写をつぶさに映し出しながら、それぞれの登場人物の心理描写やストーリーに、勝ち負け以上に人としての成長の価値について学びが多い作品だ。
緻密に描くテニスマンガ、真面目な主人公が一歩一歩ステップアップ!
決して才能があるわけではない主人公が、単純な努力や根性ではなく、理論的な実践や相手への徹底的な観察を通じて学習を重ねる姿が特徴的なテニスマンガだ。身体的な優位性に勝るには、それを補うだけの思考や徹底したシミュレーションが求められる。それは、スポーツのみならずあらゆるシーンにも通用するはずだ。価値ある努力と観察がもたらす価値について多くの示唆を教えてくれる。
ゴルフ
風の大地
- 原作:坂田 信弘、作画:かざま 鋭二
- 小学館
連載30年を超える長寿なゴルフマンガだが、その魅力はゴルフという競技を通じた人間ドラマだ。ゴルフはソロ競技と思われがちだが、自然と自分自身、そして一緒にラウンドするプレイヤーとの会話や心理といった心の持ち方一つで結果が左右される。主人公のゴルフに対するひたむきな姿勢や取り巻く登場人物らとのやりとりから醸し出される物語に没入していく感覚とともに、人間哲学や生き様を学び取ることができるはずだ。
体操・新体操
ガンバ!Fly High
- 原作:森末 慎二、作画:菊田 洋之
- 小学館
技の名前や、種目の見方、ルールや採点方法など同作を読んで、始めて体操の面白さを教えてくれた不朽の名作だ。(90年代後半から2000年代が舞台のため、現代はルールや採点には一部変更がある)。バク転やバク宙は、誰しもが一度は憧れるのではないだろうか? 重心の使い方や身体の動かし方など、体操の素晴らしさ、面白さを感じ、マットで練習したくなるに違いない。中学・高校に戻れたら、体操部に入りたい!と思うばかりだ。
サッカー
フットボールネーション
- 大武 ユキ
- 小学館
- ビッグコミックス
現代サッカーの理論に基づき、根性論ではないサッカーマンガとして、一線を画した同作。トレーニング方法一つとってみても、これまで通説だと思われていた方法をことごとく根底から覆していく。もも裏の筋肉への着目など、サッカーをしていない人でも、普段の歩き方や立ち方を意識させてしまうくらいだ。同時に、最新のサッカー理論がどれだけ進化しているかが分かる。現代スポーツが、いかにして科学的な根拠や理論を追求することで、より高みを目指すことができるかを知ることができる。
舞台は昭和40年代後半、王道の努力や根性のスポ根漫画のみならず、一人のキャラで成り立つ作品ではなく、「キャプテン」という役割に光を当てている。つまり、それまで主人公だったキャラが抜け、後輩がその役割を担う。チームという組織をまとめあげることの難しさ、前任者との能力の違い、キャプテンという責務における苦労に、スポーツが持つ社会性や組織運営の難しさを感じさせる。単純な勝ち負けではなく、個々人が自身の能力や力を最大限発揮するための環境作りこそが大切だと気づかされる。
圧巻の臨場感!キャラも魅力的な大人気バレーボールマンガ
はつらつとした主人公が、努力を重ね活躍するという王道な作品にありながらも、同作は主人公やそのチームのみならず、相手チームにも寄り添っていく。敗者にもストーリーがあり、すべての登場人物がそれぞれに思いがあってコートに立っていることを気づかせてくれる。いずれかの登場人物に自分を重ねることができるかもしれない。高校卒業後、それぞれの進路にも光を当てることで、スポーツ中心から、社会を生きる子どもであることを大切にしている。勝ち負けだけではない個々人の物語が、バレーという「つなぐ」スポーツの面白さや価値を引き立たせてくれる。読む度に、スポーツする楽しさに教えてくれる作品だ。
数少ない柔道マンガにおいて、時折ギャグを交えながらも、楽しみながら強くなる様子を描く同作は、スポ根マンガではない部活動マンガとして今も色あせない名作だ。柔道という個人競技でありながら、団体戦の描写などチームとしての目標に重きを置く。スポーツマンガにありがちな権威主義などはなく、大人も子どももフラットな関係でスポーツを楽しむ描写は、現代にこそ、その作品の特徴が光るのではないだろうか。読後には、部活という青春時代をもう一度過ごしたいと思われる気持ちになるはずだ。
野球
ONE OUTS
- 甲斐谷 忍
- 集英社
- ヤングジャンプコミックス
努力、友情、根性というスポ根漫画が多いなか、同作の主人公である渡久地は、それらを否定する。さらに、剛速球を投げるわけでも、超絶必殺技があるわけではない。しかし、スポーツという「ゲーム」をいかに“ハック”するかという点において学びが得られる作品に違いない。野球は、9対9の合計18人が関わる「ゲーム」(監督やコーチも入れればもっと大人数が関わる)であり、ゲームを成立させるために必要なルールが存在する。逆に言えば、いかにしてルールを読み解いていくかがゲームを握る鍵にもなる。そこには、努力や根性ではまかなえない、人と人とが関わるなかで揺れ動く駆け引きや心理戦が大切だということを改めて感じさせる。