選者の一覧

中村 公彦

コミティア実行委員会代表

レビューの一覧

野球

隠し球ガンさん

イラスト:やまだ浩一、著:木村公一
ビーグリー
スポーツ漫画だから、競技者を描くのが当然とは限らない。プロスポーツの世界には、それを支える様々な「裏方」のプロたちがいる。本作はベテランのスカウトマンを主役にした異色作だ。しかし、目の肥えたスカウトマンだからこそ、選手の資質を見抜く目は確かで、まだ芽が出る前の逸材の発掘や、2軍で燻る控え選手の新たな起用法を提示して見せる。それは試合における打者の選球眼にも例えられるだろう。彼らのこれからの活躍を共に思い描き、ファンの夢を賭けることもまたスポーツの愉しみのはずだ。これもまた形を変えたスポーツ漫画と呼ぶべきと思うのだ。
柔道

JJM 女子柔道部物語

原作:恵本裕子、作画・構成・脚色:小林まこと
講談社
リアルな女子柔道部! 白帯の女子高生が世界の頂点を目指す
格闘技者の動きを描かせたら、小林まことの右に出る者はいないだろう。試合における対戦者同士の動きと身体のバランス、スピードと間、技の決まるタイミング、重心の移動までを、マンガの連続するコマの中で表現する匠の技は健在だ。また本作は、原作たるオリンピック金メダリストの女子柔道家・恵本裕子の実人生をモデルとするが、期待されるようなスポ根的な展開は抑えて、脚色として適度な「笑い」を入れて緩急をつけ、一味違うエンターテイメントに仕上げる。異才・小林まことならではの快作である。
©村上もとか/小学館
クライミング・登山

岳人列伝

村上 もとか
小学館
山岳マンガの金字塔!山々の過酷さ、残酷さをリアルに描く
山とは、その美しさ、厳しさ、激しさ、静けさ、などの多面性を秘めた自然そのものだ。だからこそ多くの登山家はその命を賭してまで、そこに挑むのだろう。それはただのクライマーとしての功名心よりも、人としての本能的衝動のようにも感じられる。本作はその「限界への挑戦」を描き切った傑作だ。また、登山家だけでなく、職業としてそれをサポートする案内人シェルパたちを描いたエピソードも出色だった。山にはそこに住まい、生を営む人もいる。自然としての山を描くとは、そういうことなのだと思う。
格闘

プロレス・スターウォーズ

作画:みのもけんじ、原案:原康史
グループ・ゼロ
プロレスとは何か。それは競技とは別の次元のアートであり、演劇性も含むスペクタースポーツと言えるだろう。プロレスラーとはアスリートとしての能力と同時にキャラクター性が求められ、観客はそこに自己投影しながら、リング上で展開するドラマに一喜一憂する。その傾向はとくに海外で顕著で、WWEなどのプロレス団体では、レスラー達を「超人=神話の世界の住人」と扱うスタンスをとる。これはあるいは民族学における「まれびと=異界からの来訪者:神」とも考えられるだろう。本作は80年代に描かれた作品ながら、その風潮を先取りした意欲作で、実在レスラーを登場させながら、全くの荒唐無稽な展開を見せる。かの大巨人アンドレ・ザ・ジャイアントは、実身長の2倍に強調され、ロシア人レスラーの登場シーンには冷気が立ち込め、人類と類人猿の間をつなぐミッシングリンクまでリングに登場する(実在のレスラーだが)。覚醒したレスラーの一撃で、対戦相手は天井まで吹き飛び、レスラー同士の正面衝突ではリングは軽く崩壊する。これが神話の世界の出来事でなくて何なのか。マンガならではの虚構性とリアルなリング上のドラマが絶妙に絡み合った異色作として再評価されて欲しい作品である。
その他

ちはやふる

末次 由紀
講談社
記憶力と瞬発力のスポーツ「競技かるた」の魅力が詰まった傑作
これは現代版の『エースをねらえ!』にも思える。競技かるたの世界を舞台に、主人公・千早、新、太一の3人の幼少期の出会いから、現在進行形で高校生に成長し、それぞれのスタンスでかるたに挑む姿を描く。何より魅力的なのは、登場人物が老若男女と幅広く、それぞれのキャラが濃いこと。とくに3人の恩師である原田先生が、老境にありながら名人戦に出場し、若い彼らに貪欲に勝負に挑む姿には痺れた。畳の上では全てが対等であり、そして競技とはかくも残酷で、涙が出るほど愛おしい。そこから学ぶことを描くのもスポーツ漫画の魅力なのだ。
©ちばあきお/集英社
野球

キャプテン

ちば あきお
集英社
中学校野球部が主役! 3年間の青春=部活の魅力
才能とは何か。持って生まれた身体的な能力を超えて、スポーツには別の「何か」が存在する。例えば「才能とは好きでい続ける力のこと」という言葉があるように、本作をはじめ、作者ちばあきおの作品は、どちらかといえば身体能力に恵まれない子供たちが、ただ「好き」というだけで努力を重ね、周囲と共に少しづつ成長してゆく姿が描かれる。フィジカルエリートの競い合いとは別の、そんな選手たちの泥臭い生き様を描くことが、スポーツ漫画のもう一つの魅力なのだ。そしてそれは、偉大なる長兄ちばてつやの身近に居ながら、自分ならではの漫画を追及し続けた作者自身の投影にも思える。
©山本鈴美香/ホーム社漫画文庫
テニス

エースをねらえ!

山本 鈴美香
ホーム社漫画文庫
スポ根テニスマンガの傑作! 何度読んでも夢中になれる
10代で読み、どれほど人生に影響を受けたか知れない。一つの物事に命を懸けて真摯に打ち込むことが、人としての成長に結びつくことを描いた、まさにスポーツ漫画のバイブルと言えるだろう。そして「ここまでだと思ったとき、もう1歩ねばれ」「男なら女の成長をさまたげるような愛し方はするな」といった名言の宝庫でもあり、人生訓としても読んで欲しい永遠の名作だ。
主催
助成