過酷な現実と天才への期待。美麗に描かれたバレエの世界
バレエマンガとしては、あの『アラベスク』から30年ぶりとなる山岸凉子先生の怪作。物語のスタート時点で、主人公・六花はまだ小学5年生。彼女をはじめとする10代の少女たちに、バレエをとりまく様々な問題が降りかかる。バレリーナというアスリートに求められる身体的な資質の壁。いじめや児童虐待、拒食症といった社会問題。綿密な取材に基づくであろう設定が、ストーリーに生々しい現実感と説得力を与えていて、だからこそその中から希望を見出し成長していく六花の姿はとても美しい。
競馬・馬術
じゃじゃ馬グルーミン★UP
- ゆうき まさみ
- 小学館
競馬マンガといえばレースが中心になる作品がほとんどだが、このマンガは牧場とそこで繰り広げられる人間模様がメインというひと味変わった視点。それをゆうきまさみ先生が描くのだから、面白くないはずがない。主軸は、都内の進学校に通う主人公・久世駿平がひょんなことから北海道の牧場で働くことになり、仕事や恋愛、親との葛藤などを経て成長していく『銀の匙』にも通じるストーリー。一頭の競走馬がどれだけの想いを背負って走っているのかが、調教師、騎手、馬主など様々な人の視点から描かれていて、競馬の入門書としても名作である。
競馬界のことが楽しくわかる、馬と人間が織りなす良質コメディー
馬がしゃべる。とにかくしゃべる。最初は違和感しかないこの設定だが、読み進めていくうちに気にならないどころか、このマンガを競馬マンガの名作たらしめている要素であることがわかってくる。大型犬ほどの大きさのおよそ馬とは思えない姿で生まれた主人公・ミドリマキバオーの苦悩。レース中に繰り広げられるライバル馬たちとの駆け引きと激闘。目標のためにひとつになる馬と人(とネズミ)の信頼関係。これはギャグ競馬マンガという体裁をとった、正統派スポ魂マンガである。
怪物投手と智将。中学野球で恐れられた天才バッテリーが、野球部もない高校に入学していた。その原因は、智将が記憶喪失で野球素人となってしまったこと。中学時代、彼らに心を折られ野球を辞めることを決意した天才たちが偶然にもそこに集まって…というのがこのマンガのあらすじである。天才は残酷だ。周囲に希望を与えると同時に、才能の壁という絶望を見せつける。その壁にぶつかった人々が、再びどう希望を見出し再生していくか。天才でないすべての人が共感できる人間ドラマ。
野球
グラゼニ
- 原作:森高 夕次、作画:アダチ ケイジ
- 講談社
「グラウンドにはゼニが落ちている」ープロ野球を「金」から描く
人前であまりお金のことを語らない日本において、公然と年俸が発表される職業、野球。『グラゼニ』は、対戦相手の年俸まで知り尽くす中継ぎ投手・凡田夏之介を主人公に、「お金」という視点でプロ野球を描く一風変わったマンガだ。シーズン終了後の契約更改から、チーム移籍、メジャー挑戦、さらには引退後のセカンドキャリアまで。夢がある、そしてシビアな野球というビジネスを裏側から見ることができる。このマンガを読んだ後では、試合の見方も少し変わるかも?
サッカー
さよなら私のクラマー
- 新川 直司
- 講談社
音楽マンガの傑作『四月は君の嘘』の新川直司先生が描く女子サッカーストーリー。登場人物たちがサッカーに打ち込む理由は様々だ。強くなりたいから。王者として負けられないから。純粋にサッカーが楽しいから。けれど、全員が共通に背負っているものがある。それが「マイナースポーツの悲哀」だ。先人たちが築いてきたものを受け継ぎ、競技として大きくしなければという使命感。登場人物それぞれの心の動きが繊細な旋律のように描かれながら、ひとつの使命に向かってうねりとなっていく様は、さながら美しく感動的な楽曲のよう。
スペインで活躍する久保建英選手が出てきたとき、この名前を想起したマンガ好きは少なくないだろう。「天才・久保嘉晴」。『シュート!』をサッカーマンガ界の伝説にしたキャラクターだ。久保はその才能で、主人公・田仲俊彦をはじめとする多くの人を太陽のように魅きつけ、そして圧倒する。自分の中の憧れとどう折り合いをつけ、乗り越えていくのか。『シュート!』はそんな成長の物語だ。己の才能と日々向き合い苦悩しているすべての人に薦めたいマンガ。