ゲームをすると馬鹿になる。至るところで、呪文のように聞いて育ちました。先日も、スマートフォンでゲームしている子にそう諭している親を見ました。たかが、所詮、人生の無駄。ゲーム業界ができて四十年、ゲームに対するイメージには、まだまだネガティブなものが多いと言えます。最近になり、ゲームとスポーツの距離は縮まって「eスポーツ」という言葉が生まれました。ゲームはスポーツをその身にまとい、"真剣さ"を帯びられるようになりました。壁を壊すゲームは種々あります。次は、ゲームで壁を壊していく時代です。『東京トイボクシーズ』を読むと、そういう気持ちが沸々と湧いてきます。
レビューの一覧
スポーツにおいて、勝利目的を純粋に遂行するには、人生を懸ける必要性が生じます。換言すると、スポーツだけをしていても暮らせる状況を作らなければなりません。つまり、お金が要ります。幸いにも、人間は洗練された心技体で闘う人々に魅了されるようで、観客と応援により金銭が動き、スポーツ業界となりました。女子サッカーに、未来はあるのか。それは火急かもしれませんが、彼女らの問いではありません。サッカーで勝ちたい、という直球な欲が、彼女たちを動かしています。遠回りのようでいて、畢竟、高熱をもって打ち込む若い世代がいれば、未来はどうとでもなり得る。この漫画を読むと、そう思います。
かけっこの楽しさは、走れるからだと思います。サッカーは、ボールを蹴れるから楽しい。ゲームでも、『マリオ』が思ったようにジャンプしなければ、コントローラーを放り投げてしまうのではないでしょうか。つまり、楽しさの根源のひとつは、「可能」と言えます。逆に言うなら、できなければ楽しくありません。この漫画は、その根源を描くところから始まります。ラクロスが上手にできない少女に、夢を捨てた少年が助けに入る。できることで、少女は楽しさを見出していきます。しかし、スポーツにはその先があります。勝負することです。この漫画では、可能をひとつ会得した者が次に対峙する可能性、その一答が描かれています。
©︎河合克敏/小学館
競艇はギャンブルで、スポーツではありません。スポーツは、ルールの上で勝負します。「勝ちたい」という原始的な熱を、球や足、腕や水といった手段で果たす。それがスポーツです。賭博である競艇は、その気持ちをボートに託します。しかし、エンジンやプロペラが強ければ勝てるとは限りません。それらはあくまで大事な相棒であり、心技体が整うことではじめて勝ちへの切符を手にできます。前言訂正します。競艇はギャンブルであり、同時にスポーツです。そして賭博だからこそ、観客たちは選手に実力を求めます。そういう意味でこの漫画は、スポーツ漫画の中でも特段厳しい世界に挑む選手たちの奮闘記とも言えます。
©古舘春一/集英社
恐らく多くの方が挙げているだろうバスケットボール漫画『SLAM DUNK』は、当時の若者に衝撃を与え、バスケットボールを身近に楽しめる世の中を形成しました。スポーツ漫画は実際のスポーツを扱うからこそ、現実に影響が出やすいのでしょう。そして『ハイキュー!!』もまた、最終話直前に雑誌『月刊バレーボール』で特集が組まれるなど、現実のバレーボールに影響している稀有な漫画です。そればかりか、瑞々しい哲学に満ちた人生の処方箋でもあります。少なくとも自分は、『ハイキュー!!』がなければまったく違った人生を歩んでいました。昔も今もこれからも、感謝しかない最高の漫画です。