選者の一覧

高瀬 堅吉

自治医科大学・教授

レビューの一覧

©藤子不二雄A/小学館
ゴルフ

プロゴルファー猿

藤子不二雄A
小学館
少年漫画初のゴルフ作品! 天才ゴルファー猿が必殺ショットで勝利を目指す
ゴルフは自然と闘うスポーツだ。主人公の猿谷猿丸は、猿そっくりの野生児で天才少年ゴルファーとして登場する。「野生児」ゆえに自然を味方につけた猿は、対戦相手を次々に撃破する。ところが「黄金仮面」と呼ばれる対戦相手との勝負で、猿は雨で足を滑らせる不覚を取り、それが元で敗れてしまう。一般のゴルファーは専用のスパイクを履いて試合に臨む。自然との闘いには、人間の小賢しい知恵が必要であることを教えてくれるシーンだ。リターンマッチの際、猿は松脂をグリップ代わりに足の裏、手元に塗り、試合に臨む。ゴルフというスポーツを描きながら、自然との闘い方を教えてくれるマンガ、それが『プロゴルファー猿』だ。
©あだち充/小学館
野球

タッチ

あだち充
小学館
野球マンガの金字塔!甘酸っぱい青春劇
思春期は背伸びをする時期だ。大人っぽさを求めて一生懸命に足掻く。そういう焦燥感が思春期にはある。ただ、『タッチ』の主人公である上杉達也と浅倉南は思春期の焦燥感を感じさせない。むしろ焦っているのは登場する大人たちのほうだ。上杉達也が所属する野球部に監督代行で赴任した柏葉英二郎は、不完全燃焼だった思春期に決着がつけられずにいた。そんな不完全な大人を引き受ける思春期の上杉と浅倉。この立場の逆転は、高校野球がなぜ人々を魅了するのかを端的に教えてくれる。そう、多くの大人は不完全で、思春期に何かをやり残している。高校野球は、そんな無意識の思いを投影する装置だ。『タッチ』の魅力も、そこにある。
©すがやみつる/小学館
eスポーツ

ゲームセンターあらし

すがや みつる
小学館
eスポーツを先どった! アーケードゲームブームを支えたバトルマンガ
eスポーツという言葉を聴くようになって久しい。しかし、それはどこまで人々に浸透したのだろうか。1990年代に日本で格闘ゲームがブームになり、欧米ではプレイヤーのプロ化が始まった。そして2000年。World Cyber Games Challengeが開催され、「eスポーツ」という言葉が産声を上げる。約20年が経ち「eスポーツはスポーツなのか?」という問いがいまだに残る。「スポーツは肉体を駆使するもの」という概念を私たちがアップデートできていないからだ。『ゲームセンターあらし』は肉体を駆使したゲームの描写が特徴的だ。ゲームでここまでの描写があるマンガは今の時代にはない。eスポーツで繰り広げられる見えない戦いを可視化し、eスポーツの魅力をわかりやすく伝えてくれるマンガ。それが『ゲームセンターあらし』だ。
©︎I.T.PLANNING,INC.
車いすバスケットボール

リアル

井上 雄彦
集英社
それぞれの現実の困難に向き合う。車いすバスケは格闘技だ
「障害=正常な進行や活動の妨げとなるもの」。主人公の野宮朋美は、もう一人の主人公である戸川清春と出会ったときに、彼の車いすをこう呼んだ。「戸川清春はマシン脚!!これはこいつの才能だ」。戸川は車いすを「障害の補助具」と認識していたのに対し、野宮は「拡張する身体の一部」「才能」と位置づけた。人の体は時々刻々と変化し、時に大きな変化は社会との間に隔絶を生む。その隔絶を障害と位置づけるのか、新たに備わった才能と位置づけるのかで生き方は180°変わる。障害者スポーツなんて枠はない。拡張した身体が繰り広げる新たなパフォーマンスがそこにあるだけだ。リアルという漫画は、それを心に素直に伝えてくれる。
©︎井上雄彦 I.T.PLANNING,INC.
バスケットボール

SLAM DUNK

井上 雄彦
集英社
バスケマンガの金字塔!90年代にバスケを一躍世界ブームに
人間として、どう生きることが「喜び」につながるのかを教えてくれるマンガ。また、登場人物一人一人のストーリーがしっかりとわかるように描かれていて、試合の際に、個々の生き方がぶつかり合うさまは、「生きるとは何か」、「自分はどう生きるべきか」を問いかけてくれる。また、この歳になると安西先生に対するリスペクトが強くなるのをひしひしと感じる。全国大会2回戦の山王戦、オールコートプレスをしかけられて点差が開き、窮地に追い込まれた時の先生の言葉は秀逸。「私だけかね?まだ勝てると思っているのは」。人生はいつでも負けてない。こんな時代だからこそ、今の時代の大人だからこそ大切にしたい言葉。このマンガは人生のバイブル。
主催
助成