競技ダンスという珍しい題材で、週刊少年ジャンプで2015〜17年に連載していた作品。最初は完全な素人で、小柄でシャイで地味な主人公の土屋雅春くんが、個性豊かなダンスの達人の先輩達に鍛えられイジられながら、パートナーでやはり素人だった亘理英里ちゃんと文字通り二人三脚で成長してゆく過程はとても微笑ましい。競技ダンスのルールもかなり詳しく解説されている。高校入学から三年生までを、10 巻までと短い巻数できちんと描いているのも読みやすい。最初の読み切りはあのワンピースの尾田栄一郎先生にも絶賛されたという逸話もあり、アニメ化されなかったのが不思議な名作。
レビューの一覧
©麻生いずみ/集英社
新体操を描いた漫画は少ない中(『タッチ』の南ちゃんはとても描いたとは言えない…)、本作では新体操の当時(80年代後半)のルール、技などをきちんと表現している。主人公の上条光、先輩でライバルの椎名葉月。主人公をめぐる恋のライバルとして体操選手の大石先輩と不良で天才ミュージシャンの夏川くんの4人というキャラクター構成はありがちのようだが、この夏川くんとの恋愛模様とともに、新体操に使われる音楽という観点からもいろんなエピソードが描かれているのも面白いし、意外なラストは秀逸。夏川くんは同じ作者の自作『ナチュラル』にも重要な役で登場というオマケも。
全7巻と決して長くはない作品だが、短い巻数にこれほど泣けるポイントがあるマンガも少ないのではと思う。主人公の北野太一とヒロインの赤城榛名の男女の体操選手ふたりの幼い頃からの因縁そして恋愛も作品の重要な要素だが、体操競技についてもしっかり描かれていて、80年代の作品だが、当時には世界でも未開発だった作中で描かれた技が後に実現している例もいくつかある。ラストの展開はある意味少年ジャンプ連載作品っぽくないようで、ジャンプの本質とも言うべき純粋な感動が描かれている。
柔道漫画も数多い中で、この『花マル伝』の特長は、荒唐無稽な技もなく、地に足のついたストーリーで主人公の花マル(花田徹丸)が 中学1年生から高校生まで成長してゆく過程をしっかりと描いていること。ライバルの木元は天才だが、素人から初めて努力を重ねて物語の最後にはこのライバル同士が世界の頂点を競う。主人公二人を取り囲むように出てくる脇キャラもそれぞれ個性的な選手達で、そして二人に絡む恋の相手の女子二人も魅力的。2013年に逝去したいわしげ孝が丁寧に描いた青春柔道マンガ。
©小山ゆう/小学館
陸上競技を描いたマンガはそう多くはないが、その中でも100メートル走をテーマとした稀有な作品。1980年代に描かれたマンガゆえ、まだ日本人男子には100メートルでの「10秒の壁」が高くそびえ立っている。それゆえ10秒の壁を破ることは、肉体あるいは精神が人間の限界を超える「神の領域」であり、主人公結城光のライバル達はその領域で燃え尽きてしまう。主人公が陸上と実業界のどちらを選ぶかという選択も交錯しながら、世界王者と一対一の対決をするラストは見逃せない。日本人選手が10秒を切ることも珍しくなくなってきた今だからこそこのマンガが面白い!
空手
空手バカ一代
- 講談社
伝説の空手家・大山倍達の半生を描いた伝記的な作品
それまでは正義の柔道家に退治される悪役として描かれがちだった空手は本作によってメジャーな格闘技になったと言える。原作者の梶原一騎による「これは事実談であり、この男は実在する」「大山倍達・談」という独特の語り口によって、読者は大山倍達の超人伝説に引き込まれてゆく。このマンガが全てノンフィクションだと信じていた人も多いだろうし、原作者による誇張や創作があったと認識したのちも、このマンガの面白さは決して色褪せない。『四角いジャングル』『男の星座』ほかの梶原一騎原作の極真空手、大山倍達登場のマンガも合わせて読むと面白さも倍増間違いなし。
ボクシングがメインテーマで、最初は音楽(トランペット)ももう一つの大きなテーマのはずが、いつの間にか音楽はフェイドアウト、暴走族との抗争から高校ボクシング大会に進み、主人公B・Bこと高樹翎の「天敵」森山仁との決勝戦になるかと思いきや、物語はとんでもない方向へ。その後この二人のボクサーの人生は流転に流転を重ね、世界をまたにかけたとてつもない展開となるも、最後にはこのふたりの対決「MATSURI」、そして劇的な結末とラストへ。この激しいストーリーを、作者は全て最初から構想していたという事実には本当に驚いた。続編にあたるテニスマンガ『"LOVe"』も名作!
©山本鈴美香/ホーム社漫画文庫
スポーツマンガというカテゴリーにはとてもおさまらない不朽の名作。もちろんテニスを描いた作品なのだが、通常スポーツマンガにほぼ必ず存在する主人公の明確なライバル的な存在の選手が出てこないことがまず画期的。試合のシーンよりも日常の練習風景、コーチや先輩後輩らとの人間関係、さまざまな出来事を通じての主人公岡ひろみの挫折と成長こそが本作の魅力。さらに、前半の宗方仁、後半の桂大悟の二人のコーチが放つ名言の数々は、とても20代半ば過ぎの言葉には思えず、マンガを超えた哲学書と言っても過言ではない。本作を書き上げたのちに作者が宗教家になったのも納得。
野球
光の小次郎
- 講談社
野球マンガ、それもプロ野球を描いたマンガも数知れずあるが、その中でも本作にしかない特徴と魅力は、全球団そして全選手がオリジナル、つまり水島新司先生が創作したもので、実在の選手やチームをモチーフにしたキャラすら存在しない。この想像力には驚きしかない。さらにドラフト制度への問題提起など時代を先取りしたストーリーと、それをうまく作中に組み込む構成力も素晴らしい。主人公の新田小次郎の性格も前半はやや生意気に感じられるが実に魅力的。もう1シーズンのストーリーも読みたかったが、全19巻というのもちょうど良い長さか。
サッカーを描いたマンガは数多いが、シリーズ全体で合計66巻は現在『キャプテン翼』につぐ長さではないだろうか。しかしスピード感ある展開と構成は決して長さを感じさせない。主人公の田仲俊彦が性格的に穏やかなキャラクターゆえに、チームメイトやライバル達の濃いキャラが立っているのも本作の魅力。そして何より、物語ごく序盤にしか登場しないが、作中随所にその存在感を発揮している主人公の一学年先輩でサッカーの天才、久保嘉晴の存在感が本作の最大の魅力と言えるだろう。「サッカー好きか?」「ああ、それだけなら誰にも負けねえ」。この何気ないやり取りが本当に心に残る。