選者の一覧

吉村 麗

マンガ研究者

レビューの一覧

フィギュアスケート

The チェリー・プロジェクト

武内 直子
講談社
『セーラームーン』武内直子が描く、繊細なフィギュアスケートの世界
元スケート選手だった父の影響で幼少期から趣味でスケートをしていた中学生・飛鳥ちえり(通称チェリー)が、憧れのスケーター・続に導かれ、氷上の戦場で羽ばたいていく物語。女子向け幼年誌『なかよし』の連載(1990~91年)。当時女子には不可能と言われていた技を軽々と決めたり、物理的に不可能な技が登場するなどやや突飛な設定も多いが、フィギュアスケートの芸術的な魅力を少女マンガというコードにうまく落とし込み、随所に少女の心をくすぐる要素が散りばめられている。試合ごとに変わる衣装のデザインが可愛くオリジナリティに富んでいるのも魅力の1つ。
©浦沢直樹/小学館
柔道

YAWARA!

浦沢 直樹
小学館
「ヤワラちゃん」は社会現象に、女子柔道を国民的にした名作
元柔道選手の祖父から英才教育を受けた天才少女・猪熊柔(やわら)が、世界の頂点を目指すストーリーで、何と言っても小柄な主人公が自分より体格のいい選手を「一本背負い」で次々と打ち負かしていく爽快感がある。一方で、「圧倒的な天才」を前に自身を「凡人」と自覚して並々ならぬ努力を重ねるライバルのさやか、バレエから柔道に転向し徐々に才能を開花させていく富士子さん、柔の親友で最強の敵でもあるカナダ人選手・ジョディなど脇のキャラクターも多彩。エンターテインメントとして完成されたスポーツマンガだ。
ボクシング

1ポンドの福音

高橋 留美子
小学館
ヤングサンデー
減量が苦手な若手ボクサー・畑中耕作と、耕作が(食事制限を守れなかったという名目の)懺悔に通う教会で修道女見習いをしているシスター・アンジェラが繰り広げるラブコメディ。現代日本を舞台にして、「ボクサーとシスター」という組み合わせがまず面白い。また、多くのボクシングマンガにおいて過酷な減量が一種のドラマとして描かれるなか、そこを逆手にとった設定がコメディとして秀逸。
バレーボール

少女ファイト

日本橋 ヨヲコ
講談社
複雑な人間関係を描く、高校女子バレー群像劇
憧れのバレー選手であり最愛の姉の真理を事故で亡くし、悲しみを紛らわせようとバレーに没頭するものの、「狂犬」と呼ばれ、独りよがりな選手になってしまっていた大石練。姉の母校でもある私立黒曜谷高校に入学したことをきっかけに、仲間との絆の中に新しい目標とバレー本来の楽しみを見つけていく。この世界観では、試合はコートの中だけでは進行しない。様々な陰謀や思惑が飛び交い、心理戦を仕掛けたり不祥事を誘発して対戦相手を陥れようと画策する者も……。個性が強すぎるキャラクターたちに“推し”を見つけるのもオススメの読み方だ。
テニス

ベイビーステップ

勝木 光
講談社
緻密に描くテニスマンガ、真面目な主人公が一歩一歩ステップアップ!
子どもの頃から几帳面で勉強家だった丸尾栄一郎が、高校でテニスに出会い、選手として成長していく姿を描く。いわゆる“熱血もの”とは違い、地道な努力を重ねて少しずつステップアップしていく丸尾が、等身大の主人公として好感が持てる。対戦選手の動きを観察・記憶して分析し、試合中もノートに記録を取って戦略を立てるといった頭脳型のプレーが斬新で、テニスの知識が少ない人にもとっつきやすいのでは。
©あだち充/小学館
野球

タッチ

あだち充
小学館
野球マンガの金字塔!甘酸っぱい青春劇
達也・和也の双子の兄弟と隣家に住む幼なじみの南の三角関係を背景として、甲子園を目指す高校球児の青春を描いた不朽の名作。志半ばで事故死した弟・和也の代わりに、南を「甲子園につれていく」という夢を叶えることになった達也が、選手としてめきめきと頭角を現していくという王道のスポーツマンガでもあり、また彼らを取り巻く人間関係の描写の繊細さもこの作品の大きな魅力となっている。試合のシーンのストイックさと日常描写の「間」が織りなす独特のテンポ感が絶妙。
主催
助成