選者の一覧

椎名 ゆかり

翻訳者

レビューの一覧

フィギュアスケート

スピン

ティリー・ウォルデン、翻訳:有澤真庭
河出書房新社
「スポーツマンガ」が少ないと言われた欧米でも、近年スポーツを扱った作品が増えてきた印象がある。それでも『スピン』を「スポーツマンガ」と言ってしまうのは無理があるかもしれない。本作は、作者が高校卒業までの12年間、選手としてフィギュアスケートを中心に過ごした日々を描いたいわゆるグラフィック・メモワールとも呼ばれる作品である。思春期の不安と自身を同性愛者だと自覚したことによる孤独が、細い刃をもつスケート靴を履いて氷上で演技するフィギュアというスポーツを通して瑞々しく表現されている。
©︎松本大洋/小学館
卓球

ピンポン

松本 大洋
小学館
「才能」と向き合って自分を知って道を拓く青春群像劇
奇才・松本大洋先生による、驚くほど王道のスポーツ青春卓球マンガ。感情を出さず人づきあいを避けるスマイルと才能に溺れて自信たっぷりのペコ。努力ではどうにもならない才能という壁に対峙しながらもがくアクマと、勝利という重責を孤独に耐えるドラゴン。 それぞれ魅力的な登場人物たちが、悩みや挫折を経て自分自身としっかり向き合うようになる姿が、松本大洋先生による独特の絵柄と縦横無尽の表現力で描かれる。試合においては才能がすべてを凌駕しても、卓球に打ち込んできた努力が決して無駄ではない。笑わないスマイルの笑顔がそう言っているようだ。
ボクシング

あしたのジョー

原作:高森朝雄 漫画:ちばてつや
講談社
ボクシングマンガの金字塔! ジョーも力石徹も社会現象に
言わずと知れた不朽の名作。親の愛情を知らずドヤ街に流れついたジョーが、ボクシングをという生きがいを見つけて戦い続ける物語。作画担当のちばてつや先生の絵や演出が終盤に向けてどんどん神がかっていき、最後のホセ・メンドーサ戦にいたってはほとんど至高の域に到達している。試合後半、待ち望んだホセ戦ですべてを賭けて戦っているジョーの顔から表情が消えてゆき、あらゆる感情が浄化されて俗世から解脱したかのような瞳でホセに対峙する様は鳥肌もの。傑作中の傑作。
野球

グラゼニ

原作:森高 夕次、作画:アダチ ケイジ
講談社
「グラウンドにはゼニが落ちている」ープロ野球を「金」から描く
一流とは言えないプロ野球の中継ぎ投手・凡田夏之介を主人公に、プロ野球をお金(主に年俸)という新鮮な切り口で描いた野球マンガ。今回「スポーツマンガ」として本作を選んだが、本当は「プロ野球」という職業を扱う「お仕事マンガ」のジャンルに入れたほうがいい作品なのかもしれない。プロにとって試合はお仕事の場であり、その成績は来年以降の年俸に直結し、その後の人生をも左右する。プロ野球の金銭を巡る裏側と、移籍や残留に関する悲喜こもごものリアルを重くなり過ぎずに読めるのは、絵を担当する足立金太郎先生の愛嬌のある絵柄ゆえだろう。
©︎I.T.PLANNING,INC.
車いすバスケットボール

リアル

井上 雄彦
集英社
それぞれの現実の困難に向き合う。車いすバスケは格闘技だ
事故で少女を下半身不随にしてしまい、高校も退学になって大好きなバスケから離れざるを得なくなった野宮、病気で片足を失うものの障碍者バスケットに生きがいを見出す戸川、他人を見下して生きてきて事故で障碍者になった自分を受け入れられないバスケ部キャプテン高橋。大事ななにかを失った3人が、挫折を繰り返しながら必死で生きる姿を描くスポーツマンガ。個々の登場人物の葛藤や苦しみが胸に迫るが、特に、高橋のリハビリ仲間で下半身不随の悪役プロレスラー白鳥が臨む引退試合は、野心、情熱、劣等感、自尊心、エゴ、そして友情など、人間の様々な感情が凝縮されたエピソードになっていて号泣必死だ。
©みかわ絵子/集英社
野球

忘却バッテリー

みかわ 絵子
集英社
ギャグあり、シリアスあり! 異端の高校野球開幕
あるきっかけでスポーツの部活を始めた主人公が仲間と絆を固め、仲間やライバルたちと切磋琢磨しながら成長していく。それが学校の部活を舞台にしたスポーツマンガの王道だとしたら、本作はその王道ストーリーを大筋で踏襲しつつ、出だしから「記憶喪失」という変化球をぶち込んできた野球ギャグマンガ。物語が進んで主要登場人物の「記憶喪失」以前の事情が明らかになるにつれてシリアス度が増し、ギャグが減ってしまう点は好みから言うとやや残念。とは言え、個々の登場人物の葛藤と緊迫した試合展開の両軸のドラマが重なり合いながら展開する熱い青春ドラマである。
主催
助成