選者の一覧

鷲谷 祐也

原画展キュレーター/プロデューサー:キャラアート株式会社

レビューの一覧

体操・新体操

空のキャンバス

今泉 伸二
集英社
困難を乗り越えて見えるものは? 青春体操ラブストーリー
幼少の時に出会った、永遠のライバル「あいつ」を追う少年・北野太一と、運命的な出会いを果たした天才体操少女・赤城榛名の物語。子供の頃、運動神経抜群の太一は、月面宙返りを見せつけた「あいつ」に勝つため、コブだらけになりながら特訓を重ねていた。ある日、「あいつ」が橋から落ちたのを救う際、大怪我を負ってしまう。月日は流れ、怪我を克服したかにみえた太一は、体操に打ち込むため、赤木家にやってくる。榛名が「あいつ」だとは気づかないまま…。80年代ジャンプ連載の、スポーツ・ラブコメ作品なのだが、幼少期の怪我が原因で命の危険と隣り合わせで体操に邁進する主人公を主軸に、脇を固める登場人物たちも重い過去や悲劇と戦っている。殆どの登場人物に涙を流すシーンがあるといっていいだろう。最後に「後方伸身三回宙返り三回ひねり」というオリジナルの技が登場するが、実現したら是非「キタノ」と名付けてもらいたい。
©️河合克敏/小学館
柔道

帯をギュッとね!

河合 克敏
小学館
明るく、楽しく、さわやかな柔道部!
昇段試験で出会った柔道少年たちが同じ高校で再会し、柔道部を立ち上げるところから始まり、強豪たちと渡り合い、やがて全国大会へ、という物語。あらすじを書くと非常にオーソドックスな印象になってしまうのだが、『NEW WAVE JUDO COMIC』と銘打たれた本作は、軽妙なギャグを混えたストーリー展開、魅力的かつ多彩なキャラクター、迫力ある試合描写で、作品世界にぐいぐいと引き込む。全30巻が物足りなく感じられる程だ。作者も柔道経験があり、知見のない読者にもわかりやすい解説などが加えられている。楽しみながらトレーニングを積んで、仲間たちと強くなる。部活動を経験していなくとも「こんな仲間たちとスポーツに打ち込んでみたかった」と思わされる、「青春部活マンガ」の最高峰だ。
野球

ラストイニング

作画:中原 裕、原作:神尾龍、監修:加藤潔
小学館
ビッグコミックス
廃部の危機に立たされた、かつての名門・彩珠学院高校野球部。「来年の夏までに甲子園に出場する」ことを条件に、野球部存続を約束された校長は、とある男に監督を依頼する。それは13年前、甲子園予選試合で審判への暴力事件を起こした鳩ヶ谷圭輔だった。「弱小校が大舞台を目指す」というよくある物語に見えるが、強豪校と戦うまでの描き方・過程が見どころ。監督である主人公の、一見奇抜な練習方法・不思議な采配が、効率的かつ理論に基づいており、そこから生み出される勝利のシーンは快感でさえある。努力と根性、汗と涙、勝ち負けよりも誰かが決めた「高校球児らしいひたむきさ」を尊ぶ…。そんな曖昧な精神論を廃した、ありがちなスポ根野球とは一線を画す、一味違った野球マンガだ。
バレーボール

少女ファイト

日本橋 ヨヲコ
講談社
複雑な人間関係を描く、高校女子バレー群像劇
主人公・大石練(おおいし・ねり)は、中学の名門バレー部に在籍しながら、実力をひた隠しにしている。それには全国大会で準優勝までした小学生時代のチームメイトとのトラブルや、姉・真里が大きく関係していた。やがて自分と正面から向き合う事を決意し、姉と同じ高校のバレー部へと進む。曲者ぞろいのチームメイトも、それぞれの問題やトラウマを抱えている。この作品は、少女たちが闘い、もがきながら成長していく群像劇だ。人間関係も密なら、登場人物一人一人の背景も密。更に濃ゆいセリフが随所に散りばめられている。濃厚である。誤解を恐れずに言うと「読むとグッタリする作品」である。読み飛ばせない作品なのだ。その代わり、心の芯に喝を入れてくれる。バレーボールについても綿密な取材に基づき、丹念に描かれているが、実は物語の装置はバレーでなくてもよかったのだろう。最後に作者のTwitterでの発言を紹介しておきたい。「もうそろそろバレー漫画じゃないのに気づいてくれたらいい(まあまあバレーするけど)」。
©山田 芳裕/小学館
陸上

デカスロン

山田 芳裕
小学館
十種競技の勝者がキングオブアスリートと言われる所以は
日本では知名度が高いとは言い難い、十種競技(デカスロン)がテーマ。初日に100メートル走/走り幅跳び/砲丸投げ/走り高跳び/400メートル走、二日目に110メートルハードル/円盤投げ/棒高跳び/槍投げ/1500メートル走を行うスポーツで、「走る・跳ぶ・投げる」陸上競技における全ての能力が求められる。勝者は「キング・オブ・アスリート」と称される由縁だ。本作は無名選手・風見万吉が日本選手権に挑むところから始まる。各種目について細やかに描かれており、作者が直接「出演許諾」を得たという実在の選手たちも登場、実際の競技に興味が湧いてくる。本作の主人公は「十種競技」そのものなのかもしれない。独特の過剰ともいえる描写が、この過酷な競技にピッタリと合っている。
主催
助成