選者の一覧

黒木 貴啓

ライター・編集者

レビューの一覧

武道

あさひなぐ

こざき 亜衣
小学館
武道<薙刀>に青春をかける、女子高生たちの成長記
東京五輪で「スポーツとは何か」が大きく揺らいでいる今だからこそ、「薙刀」という、国際大会も無ければ国内でもどマイナー、競技人口がほとんど女子しかいないこの競技に、少女たちが青春を捧げる姿に強く胸を打たれます。習いはじめたときの、自分もああいうプレイをしたい、あの人みたいになりたいという“あこがれ”。そしてその理想に自分は負けたくない、ライバルに勝ちたいという“誇り”。社会から注目されない薙刀の世界で、なりふり構わず戦い、自分に芽生えた醜い感情に葛藤しながらも薙刀を振り続け、先に待っている笑顔と涙。スポーツに情熱を注ぐことの根源的な魅力が詰まった作品なので、迷ったときは何度も読み返したいです。
©小林有吾/小学館
サッカー

アオアシ

小林 有吾
小学館
ユースからプロになるサッカーの時代、高校生のサッカー人生を描く
ボールを見ずに足元で受ける技術がサッカーにおいてどれほど重要なのか。チームで繋いでゴールネットを揺らすまで、練習段階からどれほどプロの選手は頭を使っているのか――サッカーの頭脳的おもしろさをがっつりおしえてくれる名作です。サッカーの試合を観るのが体感100倍楽しくなります。ディフェンス、トライアングル、だいじ。
野球

H2

あだち充
小学館
高校野球漫画といえばどの作品も甲子園の熱闘を描くわけですが、あの時期に各家庭のお茶の間に流れる、白い夏の爽快感、じわじわとした静けさを情景たっぷりに描くから、あだち充が大好きです。自分にとって甲子園とはテレビの向こうで沸き起こるドラマであり、画面のこちら側の夏はどこか白っぽくて静かで、アンニュイな空気も漂います。その対比を実に生々しくのがあだち充で、情景のアートワークが花開いた傑作が『H2』だと思っています。
野球

ストッパー毒島

ハロルド 作石
講談社
ヤングマガジン
90年代野球漫画の中でもプロ野球が舞台、しかも抑え投手を主人公にした斬新な作品ですが、性格も主義も異なる選手たちが己の役割に徹してリーグ優勝を目指す姿には、プロならでは、大人ならではの野球のおもしろさがふんだんに詰まっています。なんといっても『BECK』『ゴリラーマン』で知られるハロルド作石の作画が最高。インテリ系スラッガーの佐世保が、作中最大の大一番でホームランを放つ見開きは、本番で結果を出すからこそプロであるというアスリートのかっこよさを凝縮した、現代の浮世絵です。
©みかわ絵子/集英社
野球

忘却バッテリー

みかわ 絵子
集英社
ギャグあり、シリアスあり! 異端の高校野球開幕
中学時代に怪物バッテリーとして名を馳せたキャッチャーが記憶喪失になり、高校では野球と無縁の青春おバカライフを満喫しようとするも…という、最初は野球を題材にしたコメディ漫画だと思っていました。物語が進み、キャッチャーが記憶を失くした謎ともに明らかになる、才能が物言う世界の残酷さ。本気でプロを目指すアスリートたちの苦悩と、それでも青春を捧げてしまう、"スポーツの夢と狂気”を笑いとサスペンスたっぷりに描いた傑作だと思います。
野球

ダイヤのA

寺嶋 裕二
講談社
週刊少年マガジン
野球漫画においてかっこいい決め球というのは速球や魔球のイメージでしたが、現実的な高校野球で「勝負どころで決められるアウトロー(外角低め)はどれほど脅威なのか」のを教えてくれた作品です。全国から優秀な選手を集める強豪校はズルい印象があったのですが、本作で描かれるエリート校ならではのはげしいポジション争い、そのなかできらめく誇りの美しさにもすっかりやられてしまいました。
テニス

ベイビーステップ

勝木 光
講談社
緻密に描くテニスマンガ、真面目な主人公が一歩一歩ステップアップ!
テニスって超能力バトルだけでなく、現実の戦いではここまで戦略性が問われるスポーツなんだ、と教えてくれた作品です。超ガリ勉主人公が、自分の欠点を細かくノートに書き出して効果的なトレーニングを積み、試合で結果を出していく姿は、「才能が無いものはどうやって考えて戦うか」のお手本。プロのアスリートに人格者が多いのはなぜか、の過程が知れます。
©︎松本大洋/小学館
卓球

ピンポン

松本 大洋
小学館
「才能」と向き合って自分を知って道を拓く青春群像劇
「才能」を前に思春期の青少年たちが抱く葛藤と克服の群像劇を、たった5巻でここまで見事に描ききったスポーツ漫画って他にないんじゃないでしょうか。一度は腐ったけれどもはい上がろうとするペコ、心の穴を埋めてくれるヒーローを待ち続ける天才・スマイル、実力も地位も名声もトップでありながら自分の限界に怯えるドラゴン、心が折れた者の代表と言えるアクマ。卓球を超え、スポーツに打ち込んだ者に待つ才能の壁と救済がさまざまに詰まった名作です。松本大洋は画力お化けなので、素人がマネしたくなる卓球のかっこいいポーズもめちゃくちゃあります。
©古舘春一/集英社
バレーボール

ハイキュー!!

古舘 春一
集英社
圧巻の臨場感!キャラも魅力的な大人気バレーボールマンガ
自分の幼少~青年期にテレビでやっていたバレーボールの試合というのは、女子のかわいさにフューチャーしたり、アイドルグループとのタイアップに注力したり、エンタメが全面に出ていて実況解説もおざなり、バレー競技のおもしろさがあまりわかりませんでした。ボールをネットの向こうに落とすシンプルなやりとりに、実はどれほど複雑で緻密な駆け引きが瞬間的に同時多発しているのか、というのをマンガというメディアの機能性を最大限に使って教えてくれたのが本作品です。あんなにスピーディーに進むスポーツでどこで誰がどういう意図で動いたかなんて、テレビで伝えるのはそもそも難しかったかも。日本にバレーを観る眼を養った功績は本当に大きいと思います。
©︎井上雄彦 I.T.PLANNING,INC.
バスケットボール

SLAM DUNK

井上 雄彦
集英社
バスケマンガの金字塔!90年代にバスケを一躍世界ブームに
高校時代、通学校のラグビー部の花園(ラグビーの全国大会)出場がめでたく決まったのですが、クラスメイトだった主将が「一試合目が強豪校だから『SLAM DUNK』の山王戦のところ全部貸してくれない?」と頼んできたのが大きな思い出です。桜木花道が一目惚れした子にアピールするためバスケを始め、魅力にズッポリはまっていく“スポーツの初心者成長ストーリー”として王道であるのは間違いないですが、最後の山王高校戦で湘北高校が見せる諦めない心というのは、ジャンルに関わらず “誇りをかけて戦う”スポーツの根源が詰まっていると思います。なお自分もスラダンのせいでバスケやりたい欲が収まらず、9年やってた剣道から鞍替えして大学でバスケサークルに入ってしまいました。
主催
助成