このマンガのレビュー
言わずと知れた不朽の名作。親の愛情を知らずドヤ街に流れついたジョーが、ボクシングをという生きがいを見つけて戦い続ける物語。作画担当のちばてつや先生の絵や演出が終盤に向けてどんどん神がかっていき、最後のホセ・メンドーサ戦にいたってはほとんど至高の域に到達している。試合後半、待ち望んだホセ戦ですべてを賭けて戦っているジョーの顔から表情が消えてゆき、あらゆる感情が浄化されて俗世から解脱したかのような瞳でホセに対峙する様は鳥肌もの。傑作中の傑作。 椎名 ゆかり
スポーツものでありながらアウトサイダーからの転身を描く作品展開は、人物像に焦点をあてることにより、これまでのスポーツ根性ものを超えたストーリーに仕立てていったところが秀逸である。 とりわけ主人公の心の温かさや野性味溢れる逞しさを描いた点が素晴らしい。そのうえ実在した人物を想起させるリアル感もある。そこに他の登場人物の濃いキャラクター設定が読者のさらなる妄想を膨らませる。試合の緊迫感が伝わる高い表現力の一方でしっかりと命の重さも伝えており、敗北の美学に説得力を持たせている。 馬場 晋一
金字塔とはこの作品のためにある言葉だ。『巨人の星』もそうであるように、梶原一騎にとってスポーツとは、苦難を根性で乗り越えて成果をつかむとか、心身の健康を手に入れるとか、そんな実利とは無縁の、命を懸けて殴り合うことでしか得られない深いコミュニケーションと圧倒的なスリルの体験だ。そこにちばてつやの「生活」に対する細やかで暖かい視線が合わさることで、奇跡的なバランスの作品が成立した。 宮本 大人
ロープを張ったリングの中、男と男が向き合い、拳をぶつける。熱狂した観客がふたりに野次を飛ばす。テレビカメラがふたりを追う。もはや逃げ場はない。殴る、という原初的な行為で成り立つスポーツは、互いの身体を痛めつけ、壊し続けることで成立する。リングに立つふたりに待っているのは、つねに破滅である。矢吹丈、力石徹、カーロス・リベラ、ホセ・メンドーサ。栄えある破滅へと向かう男たちの姿は、かくも美しい。『あしたのジョー』を手にするたび、胸を打たれ続けている。 柿崎 俊道
主人公・矢吹丈の半生を描いた、言わずと知れたボクシング漫画の金字塔。ライバル・力石徹の死は、当時、社会現象になり、リアルな葬式まで行われたとニュース記事で読んだ。登場人物の死が、ニュースになり新聞になり、ここまで社会現象や事件になったのは『あしたのジョー』の力石徹くらいではなかろうか? 衝撃度的には『タッチ』の和也も挙げられるが、時代背景を考えると力石徹は別格だったんだろうと想像できる。50年前に描かれた作品だが、今でもまったく色あせていない。感覚としては、漫画作品というよりも、文学作品に近い孤高の存在(こう書くと漫画と小説どっちが上か?みたいな話のようにも聞こえるが、決してそういうことではない)。スポーツ漫画を語る上で『あしたのジョー』を選ばない理由が思いつかない。 眞形 隆之
マンガ界の巨匠、ちばてつや先生が描く伝説のボクシングマンガ『あしたのジョー』。あまりにも有名な作品ですが、タイトルとラストシーンは知っているけど実はちゃんと読んだことがないという人もいるのではないでしょうか?著名なマンガ家の先生たちに多大な影響を与えてきたこの作品の魅力は主人公ジョーの貧しさ、葛藤、強さ、成長、希望、絶望、愛、執念、人間が持つあらゆる感情が描かれているところ。ボクシングに情熱を注ぎ、すべてを出し切り燃え尽きるまで、言葉では伝えきれないこのドラマをぜひ一度は読んでほしいと思います。 よね