選者の一覧

表 智之

北九州市漫画ミュージアム専門研究員

レビューの一覧

ラグビー

インビンシブル

瀬下 猛
講談社
モーニング
ラグビーは、日本では比較的メジャーな競技だと思うのだが、マンガに描かれることは意外に少なかった。本作はプロラグビー、それも、地方都市のクラブに焦点を当てた作品。今年2月から連載開始だから、まだまだ序盤で全貌は見えないが、経営不振や選手の流出で弱体化したチームを、助っ人加入の主人公が斬新な戦術と俊敏な身体で立て直していく物語。主人公のキャラがとにかくクセが強くて目が離せない。福岡県北九州市小倉の街とスタジアムを作中にふんだんに盛り込んだ「ご当地マンガ」の魅力もある。
サッカー

フットボールアルケミスト

作画:12Log、原作:木崎伸也
白泉社
ヤングアニマル
プロサッカーの世界は、選手の移籍が野球などと比べて頻繁で、チームの成績を大きく左右するし、年俸や移籍金などクラブ経営上の重大事でもある。本作は、プロサッカーリーグで選手移籍のエージェントを務める主人公の活躍…、いや、暗躍か?を通じて、プロリーグ故のシビアな事情をドラマチックに描いていく。ホラーやサスペンスを思わせるザラりとした描線もあいまって、ピッチの外のアツい闘いに引き込まれることうけあい。
野球

甲子園の空に笑え!

川原 泉
白泉社
花とゆめコミックス
時に「悲壮」とも感じさせる過度な真摯さを観客から求められがちなスポーツの世界。あくまで教育の一環とされる高校野球ではなおさらだ。そのため、世間の固定観念を撹乱しひっくり返すことに長けたマンガというメディアでは、真摯に競技に取り組む選手の悲壮さはしばしば格好のネタになる。あえてその逆を行ってみせるのだ。本作は、万年敗退の弱小チームに斬新な発想の新監督が現れて…という、「がんばれ!ベアーズ」的な成長物語を連想させる舞台設定で、悲壮とは無縁な朗らかさと暢気さを追求。とは言えちゃんと成長しているし、けっこう勝ち進むし、これはこれで「青春」として美しいのである。
©武蔵野創/小学館
その他

灼熱カバディ

武蔵野 創
小学館
カバディって熱いスポーツだ!体力・気力・頭脳を駆使して勝利せよ
ネタとしては聞いたことがあるが、実際ルールは知らない…そんなマイナー競技「カバディ」を本格的に取り上げた数少ない漫画作品の1つ。初心者の主人公・宵越がカバディ部に入部することから物語が始まるため、プレイ方法やルール等が読者にもわかりやすく解説されている。ストーリー展開の面白さもさることながら、実は格闘技のように熱く激しい「カバディ」という競技そのもの魅力に引き込まれていく。読後はカバディをネタとして扱うことができなくなるだろう。日本のカバディ競技人口の増にも影響を与えて、カバディ発祥のインドでも注目を浴びている作品。
柔道

JJM 女子柔道部物語

原作:恵本裕子、作画・構成・脚色:小林まこと
講談社
リアルな女子柔道部! 白帯の女子高生が世界の頂点を目指す
「柔道部物語」など格闘技マンガを得意とする小林まことが、恵本裕子の面白すぎる選手歴と人間性に惚れ込んで実現した異色タッグ。トップアスリートが「原作」を務めるスポーツマンガは他にもあるが、アスリートのキャラとマンガの作風がこれほどマッチした作品は珍しかろう。小林マンガの王道の展開!と思わせる部分が作中に多々あるが、これがすべて脚色なしの実話というから恐れ入る。悲壮感とは縁遠いややお気楽な日常と、試合に臨んでの張り詰めた非日常、緩和と緊張の往還が、読者をぐいぐいと引き込んでいく。
野球

逆境ナイン

島本 和彦
小学館
スポーツマンガの最大ジャンルは、作品数の厚みから「野球」と言ってよかろう。その長い歴史は、「魔球」や「特訓」に象徴される大言壮語とケレン味の積み重ねでもある。マンガの原点とも言える「大ボラ」の魅力を突き詰めたのが本作で、過剰な熱のあふれる名言・迷言の数々や、力強いペンタッチと濃密な描き込みが、しびれるような高揚感を笑いとともに届けてくれる。
パラ陸上

ブレードガール 片脚のランナー

重松 成美
講談社
義足とともに駆ける、さわやか少女マンガ
どちらかと言えば少年・男性向けのマンガ雑誌に多いスポーツマンガの中で、女性向けマンガ誌に、細く繊細な描線でもって、障害者スポーツを描いた意欲作。近年、義手義足は、技術の向上で使用感など基本的な性能が十分に発達していることもあり、カッコよさや美しさに注目しての開発が目立ってきている。本作は、病気で片脚を切断した少女が、スポーツ用義足「ブレード」とそれを使った陸上競技の魅力を知り、試練を乗り越えて成長していく王道の物語に、義足技術と障害者スポーツの最新の知見を丁寧な取材で盛り込んでいる。全編を貫くのは「ブレードで走る姿は輝いている」という信念で、読者の固定観念を心地よく揺さぶってくれる。
ウィルチェアーラグビー

マーダーボール

肥谷 圭介
講談社
思いっきり「ぶつかり合え」! ウィルチェアーラグビーの世界
車椅子競技では、井上雄彦『リアル』でも描かれたバスケットボールが比較的知られているが、こちらはラグビー。車椅子同士のぶつかり合いが認められた唯一の公式競技として「マーダーボール」とすらあだ名される激しい競技ゆえ、アクション要素はたっぷりだ。主人公は、交通事故で下半身に障害を負った女子高生。小柄な少女がずば抜けた車椅子捌きで相手をかわし、コートを駆け抜けていく様は胸がすくようだ。競技の中で経験する激しいぶつかり合いが、「障害者」生活の中で少女が人知れずため込んだ鬱屈を一つ一つ打ち砕いていく展開も痛快で、かつ、しみじみと考えされられる。
バレーボール

少女ファイト

日本橋 ヨヲコ
講談社
複雑な人間関係を描く、高校女子バレー群像劇
現在の日本マンガ界で一、二を争う、太く力強い描線と、躍動感のある大胆な構図で女子バレーボールを描く。女性作家が女子競技を、熱血少年マンガのメソッドで描き、(一応)男性向けのマンガ誌に連載して、男女問わず人気というボーダレスな立ち位置も現在的で小気味よい。主人公はじめ主要キャラのそれぞれが背負った心の枷を丹念に追い、競技を通じた挑戦と成長で打ち勝っていく過程は、痛々しくも力強く、心を奮い立たせてくれる。
陸上

マラソンマン

井上 正治
講談社
週刊少年マガジン
市民ランナー出身と異色の経歴で知られるトップランナー・川内優輝氏など、実際にマラソンを走るアスリートたちの共感を呼び、影響を与えている作品。マラソンは技術や体力だけでなく精神、長く孤独な闘いに打ち勝つ意思の力も重視される競技で、人間の心の動きや成長を長いスパンで描く連載マンガとは相性がよい。本作も、長期の連載の中で主人公が時に道を踏み外すなど、起伏に富んだ物語が読者を魅きつける。親子二代にわたる挑戦も、スポーツマンガの定番ながら、胸に染みる。
主催
助成